ECモデルの概要説明

ECモデルの概要

大野らによって開発されたECモデルをDifに組み込みました。ECモデルに関する説明を以下に示します。

概要

せん断による体積ひずみは、応力比と体積ひずみの直線関係が成立し、カムクレイモデルや関口・太田モデルは、この関係をモデル化しています。一方、ECモデルは、せん断による体積ひずみは、必ずしも直線によるモデル化に限定されるものではなく、大野らはせん断による体積ひずみの非線形性を考慮できるモデルを考案しました。

図- 応力比と体積ひずみの関係

応力比と体積ひずみの関係(左側は柴田による直線および、折れ線を用いた近似、右側はECモデルによる近似)

降伏関数

関口・太田モデルとECモデルの降伏関数は以下の通りで、式の第1項は圧密変形に関する項、第2項はせん断変形に関する項(ダイレタンシーによる体積変化)となります。

関口・太田モデルの降伏関数

関口・太田モデルの降伏関数

ECモデルの降伏関数

ECモデルの降伏関数

ECモデルは、ダイレタンシーによる体積変化の非線形性をパラメーターnEにより調整することができます。粘性土に関する多くの力学モデルは、圧密に関する項は同じでダイレタンシーに関する項が異なります。ECモデルはこのダイレタンシーに関する項に自由度があり、様々な力学モデルを内包できると考えられます。

ECモデルのパラメーターについて

ECモデルの降伏曲面とパラメーターについて以下に示します。

降伏曲面

下図はECモデルのnEを変化させた複数の降伏曲面とカムクレイモデル、修正カムクレイモデルの降伏曲面です。ECモデルはnE=1.0とすることによりカムクレイモデルや関口・太田モデルに帰着し、nE=1.5とすると修正カムクレイモデルの降伏曲面に近い形状となります。

降伏曲面

降伏曲面

p~q~eを3次元的に表示させた状態局面

下図は、p~q~eを3次元的に表示させた状態局面の例です。

カムクレイモデルの状態曲面図

カムクレイモデルの状態曲面図

修正カムクレイモデルの状態曲面図

修正カムクレイモデルの状態曲面図

ECモデル(nE=2.0)の状態曲面図

ECモデル(nE=2.0)の状態曲面図

ECモデルのパラメーターの決定方法

パラメーターnEは、三軸Cuバー試験結果をトレースできるようにパラメーターを決定しなければなりません。下図に示す応力経路を近似するように決定します。三軸Cuバー試験が実施されておらず、現場で沈下量と水平変位量が計測されている場合には、これらの実測値を近似するようにnEを決定する方法も考えられます。

σm'~q関係図

σm'~q関係図

εa~q関係図

εa~q関係図

パラメーターnEの感度

パラメーターnEは、主に水平変位の制御を行うことができます。カムクレイモデルと比較すると修正カムクレイモデルは水平変位が小さくなる傾向にあります。nEを大きくすることにより、水平変位は小さくなります。また、前述の応力経路からも分かる通り、nEを大きくすると非排水せん断強度も大きくなります。nEを1.0とすると関口・太田モデルに帰着することから、関口・太田モデルを適用した場合の水平変位が最も大きくなり、ECモデルのnEを大きくすることにより、水平変位を小さくすることができます。

ECモデルの適用範囲

ECモデルの適用範囲の説明を以下に示します。

非排水せん断強度

等方圧密からの三軸圧縮せん断試験で得られる非排水せん断強度の理論式を以下に示します。この理論式は、試験方法により式が異なる点に注意しなければなりません。非排水せん断強度をp0'で割ると、強度増加率Cu/p0'となります。

関口・太田モデルの非排水せん断強度

関口・太田モデルの非排水せん断強度

ECモデルの非排水せん断強度

ECモデルの非排水せん断強度

物性定数を以下のように設定した場合の強度増加率Cu/pは下表のようになります。

  • 有効応力に関する内部摩擦角φ'=25、40(°)
  • 不可逆比Λ=軽部の式(Λ=Μ/1.75)、Λ=0.9
  • ECモデルのパラメーターnE=1.0、2.0

表- 強度増加率一覧表

表- 強度増加率一覧表

関口・太田モデルのCu/P=0.20~0.33の範囲となりますが、ECモデルでは0.20~0.51の範囲となります。ECモデルは強度増加率が大きな試料にも対応できます。

三軸Cuバー試験

関口・太田モデルやECモデルは、三軸Cuバー試験結果で得られる応力経路(σm'~q)および、応力ひずみ関係(εa~q)を 近似するように要素シミュレートを行い、物性パラメーターを調整しなければなりません。 物性パラメーターの調整には正規圧密時における試料を適用します。過圧密では見かけ上の粘着力成分が入ることと、 ダイレタンシーの発現が正規圧密から生じるためです。関口・太田モデルの場合、非排水せん断強度はΜとΛから決まります。 Μは三軸試験結果から得られるφ'を用いることから、応力経路の調整はΛのみとなります。Λの調整範囲は限られていることから、 それほど大きく応力経路を変えることができません。一方、ECモデルはパラメーターnEにより応力経路を制御できます。

関口・太田モデルの応力ひずみ関係は、ダイレタンシー係数DとΜ、Λの3つのパラメーターから決まります。 Dは圧密試験結果で得られる圧縮指数λなどから理論式により自動的にきまります。このため圧密試験結果で得られたλのバラつきの範囲と Λでパラメーターの調整を行うことになります。λのバラつきがごく小さければ、Λのみで同定することになります。 ここでΛを同定すると、応力経路は自動的に決まることになり、パラメーターを同定する余地がなくなります。 ECモデルは、パラメーターが1つ追加されたことにより、応力経路同定の自由度が増しており、多様な試料に対応できると考えられます。