せん断強度低減法(間隙水圧考慮)
概要
Dif SSR-FEMに間隙水圧を考慮する機能をサポートしました。間隙水圧の考慮方法は次の通りです。 せん断強度低減法は全応力解析であり、土・水連成解析のように土と間隙水の2相系材料とした扱いができません。 せん断強度低減法で間隙水を考慮する場合には、間隙水圧相当の節点力を作用させて表現することになります。 間隙水圧相当の等方圧を節点に作用させて有効応力表示にすることにより、間隙水圧を考慮しました。
間隙水圧は、水位線を入力する方法と要素間隙水圧を入力する方法の2パターンを用意しました。 浸透流解析結果の出力プログラムにはDif SSR-FEMで使用する要素間隙水圧ファイルを出力する機能を追加しました。 水位線を設定する場合、堤体内に輪っかのような浸潤線ができると設定に工夫が必要となりますが、要素間隙水圧はそのままDif SSR-FEMで使用できますので、水位線作成の手間が省けます。
水位線は、実測水位を入力する場合や浸透流とせん断強度法で異なるメッシュを使用する際に利用します。 ただし、被圧などの影響が大きい場合には、異なるメッシュを使用した場合にも、せん断強度低減法のメッシュに要素間隙水圧を割り当てて計算することをお勧めします。
無限長斜面の安定問題に関する手計算との比較
間隙水圧を作用させた無限長斜面の安定問題について手計算とDif SSR-FEMの安全率を比較し、計算チェックを行いました。
無限長斜面の安全率
下図に示すような無限長斜面の安定を考えます。安全率の定義は、すべり面上に作用する滑動を起こそうとする力に対するすべり面上のせん断抵抗の比とします。
安全率は下式(1)のように定義できます。
Fs = S / T -------------------- (1)
ここに、
- S:スライス底面のせん断抵抗力(c・l+N・tanφ)
- T:スライス底面に作用する滑動を起こそうとする力(W・sinθ)
- N:スライス底面垂直力(γ・b・H・cosθ)
- W:スライスの重量(γt・b・H)
- γt:単位体積重量
- l:スライス底面の長さ
間隙水圧の考慮方法
無限斜面における間隙水圧の取り扱いは、以下のような3パターンが考えられます。
R=(W・cosθ-U・l)tanφ ---------------------------- (a)
R=(W・cosθ-U・b)tanφ ---------------------------- (b)
R=(W-U・b)cosθ・tanφ ---------------------------- (c)
ここに、
- R:抵抗力
- W:スライスの全重量
- φ:内部摩擦角
- θ:円弧の中央における法線と鉛直線のなす角度
- U:間隙水圧
- l:スライスの底面の長さ
- b:スライスの幅
(a)はフェレニウス法のように間隙水圧にすべり長を掛ける方法、(b)は(a)のすべり長をスライス幅にした方法、 (c)は修正フェレニウス法のように土塊重量から間隙水圧を差し引く方法です。
計算条件と計算結果
斜面の高さH=10(m)、傾斜θ=25(°)、γ=20(kN/m3)、c=30(kN/m2)、φ=35(°)として計算した手計算の例が以下の通りです。 最も小さい安全率と最も大きい安全率には15%近くの差が生じます。
ケース | l(m) | H(m) | W(kN/m2) | T(kN/m2) | S(kN/m2) | Fs |
---|---|---|---|---|---|---|
(W・cosθ-U・l)tanφ | 1.103 | 10 | 200 | 84.5 | 82.8 | 0.98 |
(W・cosθ-U・b)tanφ | 1.103 | 10 | 200 | 84.5 | 90.0 | 1.06 |
(W-U・b)cosθ・tanφ | 1.103 | 10 | 200 | 84.5 | 96.6 | 1.14 |
SSR-FEMによる計算で得られた安全率は1.01でした。無限長斜面の条件ですが、SSR-FEMは全長100mの有限長モデルであり、境界の影響を受けており安全率にはやや誤差を含んでいます。境界の影響が十分小さくなるようにモデルを十分広くすれば、0.98に近づきます。
堤防の安定問題に関する極限平衡法との比較
堤防の安定問題に関する極限平均法との比較検討について以下に示します。
概要
河川堤防の構造検討の手引き(以降は手引き)に示されている方法で剛塑性法に基づく円弧すべり計算とSSR-FEMの比較検討を行いました。飽和・不飽和浸透流解析を行い、水位上昇時と水位低下時の間隙水圧を求め、その結果を使用して円弧すべりとSSR-FEMの計算を行います。円弧すべり計算では通常、水位線(浸潤線)を与えて計算を行う場合が多いですが、水位線を使用する方法と間隙水圧を直接使用する方法とし、間隙水圧を直接使用する方法は、負圧(サクション)を考慮しないケースと考慮したケースを実施し、合計3パターンの条件で解析を行いました。負圧については、浸透流解析で不飽和領域のヒステリシスを考慮していないことから、水位低下時の負圧は過大に考慮する結果(危険側)となります。
円弧すべり計算結果
円弧すべり計算結果を以下に示します。水位上昇時の安全率は、3ケースとも同程度です。水位低下時の安全率は、負圧を考慮したときのみやや大きくなっています。円弧が不飽和領域をある程度通過しているためです。本検討では水位線を設定したケースと間隙水圧を設定したケースではほぼ違いが得られませんでしたが、間隙水圧は水位線からほぼ静水圧状態となっているためです。水圧が静水圧より大きくなるようなケースでは、間隙水圧を設定したほうが安全率は小さくなします。
SSE-FEM計算結果
全体的に円弧すべり計算よりもSSR-FEMの安全率が大きくなっています。水位上昇時の安全率は4%程度増加、水位低下時の安全率は11%程度の増加です。水位上昇時の作用水圧の方向は、全て川表側から川裏側に向かっています。一方、水位低下時の作用水圧は、堤体中心付近から左右に分散されています。このため水位低下時のほうが安全率の増加率が大きくなっているようです。すべり線は、水位線を設定したケースと、間隙水圧を設定したケースでほぼ同じです。
簡易ビショップとSSR-FEMの比較
手引きに示されている円弧すべり解析の計算手法は、修正フェレニウス法です。手引きに従った解析では簡易ビショップ法は使用されませんが、簡易ビショップ法とSSR-FEMの安全率を比較した結果を以下に示します。全体的に簡易ビショップ法よりもSSR-FEMの安全率のほうが小さくなっています。